ヤスキチ・ムラカミの世界へようこそ

この度は、「ヤスキチ・ムラカミの世界展〜オーストラリアに生きた写真家・実業家・発明家〜」にお越しくださいましてどうもありがとうございます。この展覧会は、オーストラリア在住の写真家金森マユさんが、10年以上に渡ってリサーチを続けているオーストラリア日系移民の写真家村上安吉(今回のイベントではすべて「ヤスキチ・ムラカミ」と表記)についての展覧会です。

金森さんのお仕事は、オーストラリアへの日系移民のみなさんの歴史や仕事を丹念に掘り起こすことを土台にしたものがその中心の一つとなっています。それは単に写真ばかりでなく、映像やパフォーマンスなど多岐にわたるのもその魅力となっています。

今回は、その中で村上安吉というオーストラリアで写真家として活躍した人物の仕事の焦点をあてています。村上安吉は オーストラリアに渡り、写真家として見出されて実績を残しますが、太平洋戦争の勃発によって民間収容され、終戦を待たずに所内で亡くなってしまいます。金森さんはこのオーストラリアに生きた日本人写真家の仕事を追い、その跡を克明にたどりながら、オーストラリアではあまり残存していなかった写真の多くをついに和歌山の実家で発見することになります。

今回の展覧会は、主として 村上安吉の撮影した写真で構成された展覧会になっています。そこには、村上安吉のカメラのレンズを通してみた日系移民の姿、当時のオーストラリアの姿の一端がしっかりと焼き付けられていますし、そして何よりも村上安吉の眼差しをそこに感じ取ることができるものです。これらの写真は、オリジナルをデジタル化したものですが、現代に溢れかえるデジタル写真とは一線を画しており、容易には反復され得ない、不思議にも強靱な力がみなぎっています。

今回は、この村上安吉という日系移民として生きた写真家の写真を中心にした展覧会をどうぞお楽しみください。そこには、自らをこの写真家と重ね合わせることで自らのアインデンティティを探究する写真家金森マユさんの姿も見てとれることと思います。

なお、金森マユさんは、この村上安吉についての劇『ヤスキチ・ムラカミ 遠いレンズを通して』を自ら書きおろし、今回それを上演もいたします。そちらの方もどうぞお愉しみくださいますようお願いいたします。

 

 

 

永田靖(大阪大学中之島芸術センタ−)